2005年12月08日

父の背中、私の背中 2 【演説】

「あの・・・」

思い切って、父に話しかけてみた。

「残念だったね。」

父の背中、私の背中 2 【演説】

父は姿勢を変えず、今まで聞いたことのない低い声で、こう言った。

「お前にも、迷惑をかけるな。すまなかった。」

「ううん、そんなことないよ。」

「・・・こんなときくらい、お前も言いたいことを言ったらどうだ?」

「えっ・・・。」

うつむいてて見えなかったけど、あの父が少し笑っているようだった。

「俺にはもうひとつ、家族があった。
 正直、家族なんて呼べるような代物じゃなかったと思う。
 そのせいで、お前にも真正面から向き合えなかった。
 二つの家族を持つ事で、俺は一つも家族を持てなかったんだ。

 許してくれ、とは言わない。
 ただ、これからはお前にはお前の好きなように生きてほしいんだ。
 政治家の娘ではなく、ただの、一人の女性として。」

その言葉は、実は父にとって都合のいい事ばかりの内容だったけど、
今までの威厳に満ちた父の演説にはない、父なりの、精一杯の優しさが
うかがえる話だった。

「いまさら・・・今更、そんなこと言われても。
 私はこの歳まで、ずっと『政治家の娘』として生きてきたの。
 それを急に、ただの女になれなんて言われてもできない。

 だから、ねえお父様、もう一度、政治家になって。
 私は好きなように生きたいの。政治家の娘として。」

父は、こちらに顔を向けずに、ただ

「わかった」

とだけ言った。

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そして、あれから3年半。
私は父の地盤を継いで、正式に出馬することになった。

ついでに言うと、ちゃっかり結婚もしてたりする。
平凡なサラリーマンのご子息で、職場の同僚。
あれだけタンカを切っておきながらしっかり自分らしく生きはじめて
いた私だったが、一年前に息子を出産してから何かが変わった。

守るべき存在を持ったこと、母になったこと。
私は、彼のためにも、そして多くの子供たちのためにも、よりよい環境を
提供したいと思うようになった。

父は、目的を見失って政治という手段を目的にすり替えてしまった。
けど、私はそうはなりたくない。

だから、まずは私は私の家族を大切に思いながら、選挙カーの上に立ち、
眼下にいる人たちに向かって演説をする。

「私の父に、家族と呼べるものはありませんでした。
 けれど今、私には守るべき家族がいます。

 私は、私の息子が健やかに成長できる社会づくりに、
 この地域から取り組んで生きたいと思います。」

背中には、1歳になったばかりの私の息子。
スピーカーから響く私の演説を子守唄に、この子は育っていくのだろう。
この大きな音を我関せずとして眠り続ける息子、案外大物になるかもしれない。


本編もよろしく

ランキングくりっくよろしくちゃん。


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Posted by miya/みや at 23:59│Comments(0)2005年11月NW
 
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