2005年11月04日

春と修羅 【インスパイア】

東京の生活にも慣れた。
上京して3度目の春が、目前まで来ている。


この、平凡な暮らしも悪くない。
職場と家の往復。
6時55分、テレビの占いコーナーを見るために起き、23時から始まる
バラエティを見ながらコンビニで買った冷えた弁当を食べる。

ただ、それだけ。

夢もあった、はずだ。
そんなもの、とっくに忘れてしまったけれど。

東京は、僕の精気を、吸い込んでしまった。
吸い込む、という表現はちょっと違う。
大海に、一滴。
僕という「個」は、この海に同化してしまった。

今日は3月31日。
明日には、大勢の「個」だった後輩達が、この海へとやってくる。

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4月1日。

私は、住み慣れたこの街、親元を離れ、東京の企業へ就職した。
地元の高校、地元の大学。そして、東京へ。
ここを離れる気はなかったけれど、成り行きでこうなった。

一度、見ておくのも悪くないかもしれない。
私はこの街に住む平凡な男と結婚して、この街で子供を産み、
そして歳をとっていくだけのはずだった、多分。

これは、変わるきっかけかも知れない。

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4月7日。

ふたつの思いが交錯する。
新しくやってきた彼女の、初々しい黒いスーツ、黒い髪、そして
黒い瞳を目にしてからだ。

希望に満ちた意志の強い瞳。
それは僕がなくした光。
僕にはまぶしすぎる光。

目を背けたい思いに駆られるが、かといって視線を動かすことが
できない。

純粋な羨望の思いと、いつか僕のように濁ってしまう事を思い、
ほくそ笑む黒い気持ち。
いっそ汚れてしまうなら、綺麗なうちに僕が汚してしまいたい。

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4月16日。

今日、私はいきなり大きな失敗をしてしまった。
知らない、わからないという言葉では済まされないミス。

先輩が、フォローをしてくれた。
いつもくたっとしたスーツを着ていて、ちょっと頼りない印象を
持っていたが、私の代わりに頭を下げ、あっという間に問題を
解決してくれた。
その様子を見て、私の中であの人の評価が変わった。

この人が、私を変えてくれるかもしれない。

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4月20日。

彼女は、周りによい影響を与えている。
閉塞した僕の生活にも、わずかながらの変化を与えてくれた。
けど、その変化は僕の心に暗く長く伸びる影を落としている。

嫉妬、これはまごうことなき嫉妬。

僕が上手く馴染めなかった職場へあっという間に取り入り、
先輩である僕の築いてきたテリトリーを次々に侵略する。

純粋な気持ちであった羨望の心は、墨汁を垂らしたかのように
黒く染まっていく。

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4月25日。

駄目だ。もう耐えられそうにない。
醜くて汚くて黒い感情がさらに澱んでいく。

これ以上僕を見ないでくれ。
平凡だと思っていた自分は、こんなにも醜いのに。
君が思うような、真っ当な人間ではないのに。
知らなかった。自分の中に、こんな感情があるなんて。

君に、本当の僕が見えるのか?
僕はひとりの修羅なのに。

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4月27日。

完全に、避けられている?
私の思いは音を立てて空回りを始めた。

希望に満ちていたはずの東京での生活。

けど、

もう、こんな気分では、いやだ。
いつもの作り笑いだってできそうにない。

私の中に、夜叉が生まれようとしている。

取り繕って、馴染もうとしていた私。
その殻を破って、ほんとうの私が顔を出す。


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<参考文献>

 宮沢賢治「春と修羅」
 http://why.kenji.ne.jp/haruto/109harut.html
 (縦書きを読まれることをおススメします)

 高橋源一郎「ミヤザワケンジ・グレーテストヒッツ

 
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本編もよろしく

ランキングくりっくよろしくちゃん。


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Posted by miya/みや at 23:59│Comments(0)2005年10月NW
 
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