Tropical Rain Forest 2 【連載】

miya/みや

2005年10月25日 23:59

はじめは、何も意識せずに何気なく
「ダンスフロア、意外と人が少ないんだね」
と、一番手前にいた娘に声をかけただけだった。

彼女は一瞬戸惑いを見せたものの、はにかんだ笑顔で
「今日は日曜日、この時間はあまり踊る人はいないの」
と答えてくれた。

彼女の名前はHuyen。俺より2つ年下だった。
一瞬戸惑ったのはもともと英語が得意ではないからだそう。
もちろん、俺のブロークン英語もとても褒められたものじゃないのだが。

それから、人が少なかったことも幸いして、2人で色々な話をした。
日本とヴェトナムの違い、経済的な豊かさ、お互いの家族のことなど。
彼女は4人姉妹の末っ子で、現在二番目の姉と同居しながら高校に通っていた。
彼女が英語を勉強中で、単語自体をあまり知らないことや、話す言葉もクラブ特有、
大音量のビートにかき消されがちだったことから、耳元で囁く会話に加えて
メモ帳を使った筆談も多用されるようになっていった。

「In Japan: snow? very cold」
「I have never seen Snow」

この娘は、雪を知らない。
それどころか、この町以外知らないんだ。
そう思うと、一層愛おしさを感じた。
この世界にある、もっときらびやかなものを見せてあげたい。
価値あるものを教えてあげたい。徐々に想いは強くなっていった。

話の途中、ふと遠くを見ている彼女がいる。
時間もMidnightに近づき、人も増えてきたダンスフロアをぼんやりと眺め、
小さくリズムを刻んでいる。

「ねえ、踊ろうよ」

しかし彼女は、このバーカウンターに捕らわれた籠の鳥。
申し訳なさそうに周りの店員を見回しながら俺を見て、小さく首を横に振る。
たまらなくなり、彼女の腕を掴むと、カウンターに向かって
「Sorry!」
とだけ言って無理矢理フロアへ連れ出した。


本編もよろしく

ランキングくりっくよろしくちゃん。
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